アニメレビュー 単発映画

「AKIRA」 / 87点

1988年公開
原作‥‥‥大友克洋
監督‥‥‥大友克洋
声の出演‥岩田光央 佐々木望 石田太郎 玄田哲章 小山茉美
近未来の日本を舞台に、人体実験により変わってしまった友人を助けようとする主人公を描いたSF作品。日本のアニメが「ジャパニメーション」と呼ばれる事になる、記念碑的作品。

ハリウッド映画ともSF小説とも違う、独自のSF世界観と、超絶なまでのクオリティが見事に合致した作品で、本作が好きだという映画監督は数知れない。特にバイクの造形、気色の悪い敵、レーザー砲などの武器あたりの描写は見事の一言。

お話も単純な勧善懲悪ではなく、科学者(っていうか人)によって超能力を身につけた少年のエゴ、それに翻弄される暴走族(仲間)のぶつかり合いなどが描かれ、なかなか考えさせるものがあったし、当時まで新人だった岩田光央や佐々木望の迫真の演技は良い(女性は可愛くないけど)。

実際はもっと長い作品だったが(漫画とか結構長い)、劇場版はすっきりしていて良いし、ジャパニメーションと呼ばれて賛辞されるのも納得出来る作品だと思います。
アニメ好きならとりあえず見ておきましょう。


「イノセンス」 / 75点

2004年公開
原作‥‥‥士郎正宗
監督‥‥‥押井守
声の出演‥大塚明夫 山寺宏一 田中敦子
2032年の未来世界を舞台に、人形ロボットが人を襲う事件を追う2人の刑事(?)の姿を描いたSFアニメ。
原作、監督の名を見れば大体予想がつきますが『攻殻機動隊』の続編です。主役はバトーとトグサで、何故か素子さんは失踪中という設定。

私、映画の『攻殻機動隊』は正直言って話が難しすぎて意味が分からなかったんですが(テレビ版はそうでもなかったですが)、実は本作もそうだったりします。
映像に関しては間違いなく今現在出来るであろう最高レベル。雑多な雰囲気でありながら、信じられないくらい美しく、そこらへんの萌えアニメが束になっても絶対に太刀打ち出来ないでしょう。超美麗ながら立体的に動く背景などは感動的ですらあります。

しかし、褒められるのは映像面のみ。エンタメ性のまったく無い暗い映像、哲学的で理解するのに大変苦労する会話。唯一の女性であった素子さんがいない為華やかさも無く、正直この作品をSFが好きではない人に勧めるのは躊躇します。アクションシーンもありますが、決して多くありません。

また前述した『攻殻機動隊』を事前に見てないと分からない点も多く、にも関わらずあまり「続編」である事が紹介されてないので、これも人をふるいにかけるんじゃないでしょうか?
なので、私は今敏監督の方が好きです(笑)


「X」 / 80点

1996年公開
原作‥‥‥CLAMP
監督‥‥‥りんたろう
声の出演‥関智一 成田剣 岩男潤子
世界の崩壊を願う男と、それを阻止しようとする男との戦いを描いた、現代ファンタジーアニメ。
スクリーントーンを大量に使用した濃淡の濃い原作を忠実に再現する超美麗の映像は見事の一言。またアクションシーンの迫力や、よく動くキャラと、映画ならでは映像美は文句ありません。

しかし、公開当時原作がまだ終わってなく(しかもまだ終わってない)、更に十数巻にも及ぶ(であろう)原作を2時間程度で完全に描けるはずもなく、たくさんのキャラは出るもののあまりにも呆気無く死んでしまったりと、恐ろしい程展開が早い。端折られた箇所も数知れず。しかもかなーりグロい。血飛沫と共に首がぶっとぶシーンなども用意されてます。

話を端折ると面白さが激減する作品なので、これには文句タラタラ。いくら映像が綺麗で、一応の完結は見せようとも、肝心のお話に魅力が無いのではのめり込めません。XJAPAN屈指の名曲「Forever Love」を使ったのも、単にタイトルとバンド名が同じだからという感が否めません。

後にテレビアニメになるので、見るならそっちの方がいいと思います。


「君の名は。」 / 87点

2016年公開
原作‥‥‥新海誠
監督‥‥‥新海誠
声の出演‥神木隆之介 上白石萌音 長澤まさみ 市原悦子
ある日突然人格が入れ替わってしまった2人の男女を描いたファンタジックラブストーリー。
東京で生活する男子学生・立花 瀧(たちばな たき)と岐阜県の田舎で生活する女子学生・宮水 三葉(みやみず みつは)はある日、突然中身が入れ替わってしまった。まったく違う生活にアタフタする2人だったが、やがてお互いを意識するようになり‥‥。

日本映画として第2位(1位は「千と千尋の神隠し」)、興行収入250億円という超ヒットアニメ映画。人格が入れ替わるというネタはちょくちょくありますが、その要素を現代的なファンタジーで上手く混ぜ合わせた作品だなと思いました。

美しい映像と美しい音楽、起承転結のハッキリした分かりやすいラブストーリーという、万人受けする要素満載。声優はメインは俳優・タレントさんですが、あまり違和感も感じず、スッと入り込めました(サブキャラでは本職さんも使っている)。上白石萌音さんは声が可愛かったですねw 長澤まさみさんはエンドロール見るまでまったく分かりませんでしたw

思い切り個人的な意見を言わせてもらうなら、本作以上に感動するラブストーリーアニメはいっぱいあると思うし、映像は綺麗だけど、もっと凄い作品もあると思います。本作が突出して優れた作品だったとは思わないし、何故この作品が歴代2位の成績を収めたのかも、正直ちょっと疑問だったりします。
ただ、あらゆる要素が87点で、悪かった点がほぼ無いという、ここまで「キレイにまとまったエンターテイメイト作品」も、ある意味なかなか無いな、とも思いました。

強いて苦言を言うなら「隕石が落ちる」という展開はどうだったんだろう? ちょっと現実味が無さすぎる気がしたかな。そこらへん、もう少しリアリティがあっても良かったかも。
癖らしき癖も無いので、一度は見てみてもいいんじゃないかな、と思います。

最後に。この作品がここまでヒットしたんだから、日本のアニメの未来は明るいなって思います!


「劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」 / 85点

2020年公開
原作‥‥‥吾峠呼世晴
監督‥‥‥外崎春雄
声の出演‥花江夏樹 鬼頭明里 下野紘 松岡禎丞 日野聡
2019年に放送されたテレビアニメ「鬼滅の刃」の続編となる劇場版です。ブームの真っただ中に公開され、興行収入は「千と千尋の神隠し」を抜き、400億円を突破。2021年現在歴代1位という、驚異的な数字を叩き出しました。
物語は炭治郎達が指令を受けて「無限列車」に乗り込み、そこで「柱」の1人である煉獄杏寿郎(れんごくきょうじゅろう)と共に鬼を退治するというモノです。
映画ではあるものの、あくまでテレビアニメの「続き」であり、これまでのあらすじや登場人物の紹介などは一切無し。「そこらへんは、もういちいち言わなくても分かってるよね?」的な空気です(笑)。

正直、作画はテレビアニメとそれほど変わってはいませんが、元々が超作画だったので一切問題は無し。また、展開がかなり早めで、冒頭10分くらいでもう戦いが始まります。その後は最後までひたすら戦闘が続くので、中だるみも無く、最後まで一気に見れて良かったです。

キャラクターについては、もちろん炭治郎が主役である事は間違いないんですが、柱である煉獄杏寿郎のインパクトは超がつくほど絶大で、ド派手な見た目、熱血で正義感溢れる性格、そして炭治郎達を軽く凌駕する驚異的な強さは本作の見所の1つと言っても良いと思います。また、本作の敵である魘夢(えんむ)も杏寿郎とは違うインパクトがあって、面白かったですね。

残念だったのが、炭治郎と杏寿郎が共闘するシーンが無い事。魘夢と戦うのは主に炭治郎達で、杏寿郎はその後に突然登場する鬼・猗窩座(あかざ)と戦う事になります。2人が一緒になって戦うシーンがあるともっと燃えたと思うんですけどね。

正直、単体では成り立たない作品が歴代収入1位になってしまうのはどうなんだろうとも思いますが、面白かったかどうかと聞かれれば間違いなく面白い作品でした。煉獄杏寿郎という熱い人間の魂の戦いが堪能できる作品です。


「この世界の片隅に」 / 85点

2016年公開
原作‥‥‥こうの史代
監督‥‥‥片渕須直
声の出演‥のん 細谷佳正 尾身美詞 小野大輔 潘めぐみ
第二次世界大戦真っ只中の昭和19〜20年、軍港で有名な広島の呉市を舞台に懸命に毎日を生きる少女を描いた戦争アニメ。
物語の主人公は広島県広島市生まれの少女・すず。絵を書くのが好きなボーッとした性格のすずですが、18歳になると広島市から20キロ離れた呉市に嫁ぎに行き、そこで夫やその家族達と日々の生活を送っていきます。空襲があろうとも原爆が落ちようともそして戦争が終わろうとも、すずの生活は終わりません。
クラウドファンディング(普通の人から資金を集める事)で数千万円もの資金を調達した事で話題になった本作。戦時中の一般市民の生活を描いた作品です。数ある戦争作品の中でもここまで「一般市民の日常」に焦点を当てた作品は珍しいと思います。
↑に書いてある通り、どんな事があろうとも、軍人でもないただの一市民であるすずの生活は変わりません。配給が無くなったら道端の草をご飯のおかずにし、水でふやかした米を食べます。着る物が無くなったら着物を切ってもんぺにします。そんな「戦争中の日常」をひたすら淡々と、そして暖かく描いているのが本作です。
物語の後半、戦争が終わりに近づく頃は空襲ばかりになり、そして8月6日には隣の市に原爆が落ちてしまいます。それでもすず達の生活は変わらないのです。彼女らができた事はただ生きる事だけだったのですから。
故に本作から明確な「反戦」や「戦争批判」、そしてもちろん「戦争賛美」も感じられません。
絵柄は極めてほがらかで童話のような暖かさがあります。主人公のすずの困ったような顔はとても可愛らしく、萌えの要素さえ見て取れます。作中には夫・周作とのキスシーンなどもあるのですが、ちょっとドキッとしましたw 音楽も大人しめで、映像も美麗ですが、戦艦や戦闘が迫力あるという事ではなくジブリ的自然美の細かさが光っていました。
声優は「あまちゃん」で一躍有名になった能年玲奈ことのんさん。最初はちょっと下手かなと思ったんですが、聞いてる内に違和感は無くなっていきました。他は昨今の有名なアニメ映画には珍しくプロの声優が数多く出ており、すずの夫・周作は細谷佳正さん。こちらはさすがの演技力でした。総じて声優さんの演技は良かったと思います。
書いた通り、本作を一言で言い表せば「戦争に関係の無い一市民の生活をただ描いているだけ」なので、正直全体的に起伏の無い、言い換えれば地味な作品とも言えます。でもこれも「戦争の一部」であり、そしてそんな生活が「今」と地続きである事を強く認識させられます。
戦争が良いのか悪いのか、それを議論する気はありませんが、過去の戦争を知る良い作品だと思います。


「サマーウォーズ」 / 70点

2009年公開
監督‥‥‥細田守
声の出演‥神木隆之介 桜庭ななみ 谷村美月 富司純子
インターネットが発展している社会を舞台に、仮想世界OZ(オズ)を巡るトラブルに巻き込まれてしまった田舎の一家族を描いたドタバタSFアニメ。
物語は学校の先輩、篠原夏希(しのはらなつき)に誘われ、彼女の実家にやってきた主人公が小磯健二(こいそけんじ)がふとした事から仮想世界OZのトラブルに巻き込まれてしまうというもの。「時をかける少女」で高い評価を得た細田守監督作品。
まず言っておきましょう。私は完全に内容を勘違いしていました。私はてっきり片田舎で起こるドタバタコメディ的なものをイメージしていたのですが、まさかこんなにSFの要素が強いとは思っていませんでした。ネット世界「OZ」内の革新的映像、「アカウント」「アバター」と言った専門用語(って程でもないけど)など、ある程度はインターネットを知っていないと理解するのは難しいと思います。
私はその辺りは全然平気でしたし、実際ハッキングAI「ラブマシーン」とカズマとの戦いなどは結構面白かったと思いました。ラストの急展開も嫌いじゃなかったです。
しかし、私が気になった所はそんな所ではありません。
とにかく「何故あんなに登場人物が多いのか?」です。はっきり言って健二と夏希、カズマの3人以外は名前すら覚えられませんでした。しかも紹介はたった10秒程度。更にこれと言って重要なわけでもない。何であんなに多いのか、分かりませんでした。
で、これもその人物と関係がありますが、インターネットの話とその家族とに密接な関係が無いのも「?」です。確かに1人、重要人物はいましたが、それ以外はネットトラブルとはまったくの無関係。
ぶっちゃけて言うなら「設定」と「物語」が噛み合ってなさすぎるんです。人物が多いなら、それなりに彼らを物語の中に組み込んでほしかったです。
それといい加減「声優」を何とかしてほしい。「時かけ」もそうでしたが、声優を使わないメリットは何もないと思います。神木隆之介はいいとしても、他の人は誰も知りませんでしたし、そんな人達を起用しても宣伝効果には繋がらないと思います。
正直、期待外れでした。もっと「物語」を考えて作ってほしかったです。


「人狼 JIN−ROH」 / 90点

2000年公開
原作‥‥‥押井守
監督‥‥‥沖浦啓之
声の出演‥藤木義勝 武藤寿美 木下浩之 廣田行生
近未来の日本を舞台に過激派テロ組織「セクト」に対抗するため、軍事組織並の装備を持つ「首都警」に所属する主人公と、それに近付く少女を描いた恋愛ドラマ。
世界観などは押井守作品を見た事がある人なら新鮮さも何も無い、近未来。しかし、本作の意外な所はこの作品のメインが「恋愛」であるという事。

キャラとかはリアルタッチだし、退廃した世界観もあってか映像も暗く演出も地味系ではあるんですが、とにかくこのメンツが恋愛を描いたって事そのものが凄い。トレンディドラマみたいなのでは全然無いんですがちゃんとキスシーンまで描かれており、見た目が可愛くなくともヒロインの雨宮圭ちゃんは好きでした(しっかし幸薄そうな顔だ)。

しかし、そのまま恋愛で終わらせてくれるはずもなく、ラストはビックリの結末に至ります。最後にはすんばらしいアクションシーンも登場(皮肉で言ってます)。個人的にはハッピーエンドを希望してたんだけどなぁ。たまにはそういうのを描いてもいいじゃん!

クオリティなどに関しては文句一つありません。ハッピーエンドだったら97点あげても良かっただけに、ちと残念です、はい。


「スチームボーイ」 / 80点

2004年公開
監督‥‥‥大友克洋
声の出演‥鈴木杏 小西真奈美 中村嘉葎雄 津嘉山正種
19世紀のイギリスを舞台に、超高密度の蒸気を封じ込めたボール「スチームボール」を操る冒険を描いた壮大な活劇アニメ。
物語は発明大好き少年レイが祖父からスチームボール受け取る所から初まり、それを奪う者達との戦い、そしてそれを使い巨大施設を完成させようとしている父との出会いへと発展していきます。
「メモリーズ」以来、実に9年ぶりとなり大友監督の長編アニメ映画。

舞台が舞台な為、サイバーな雰囲気は減退しているものの、お得意のスチームパンクな要素は満点。
今回はタイトル通り、スチーム、つまり蒸気の関するネタが満載で、それらを駆使した壮絶な映像はやっぱり凄い。特にラストの蒸気が猛烈な勢いで凍り付いていく様子は圧巻でした。
また、大友監督と言えば女性の魅力がほぼ皆無でしたが、本作ではスカーレットというおとぼけ&可愛いキャラがいるお陰で暗い雰囲気にはならず、今までの作品の中でも特に一般受けが良さそうな感じがします。
声優も鈴木杏さんはよく声が出てたし、何と言っても小西真奈美さんの萌え声はビックリ。全然分かりませんでした。でも、それが良かった。

ただ、実際興行収入的には惨敗だったらしく、私も「9年かかってこれか‥」とは思いました。また先ほど「一般受けが良さそう」と言いましたが、逆を言えば大友監督らしい「アク」もあまり無いので、個人的にはもっともっと痛々しいメッセージ性があっても良かったかも。
とは言うものの、流石のクオリティには間違いはないので、日本のアニメのレベルの高さが伺えます。


「スプリガン」 / 88点

1998年公開
原作‥‥‥たかしげ宙 皆川亮二
監督‥‥‥川崎博嗣
声の出演‥森久保祥太郎 子安武人 城山堅 玉川紗己子
超人的な能力を持ち、世界中の古代遺産を守る戦士・スプリガンの戦いを描いたスタイリッシュ・アクションアニメ映画。
迫力ある漫画を描かせたら日本でも五本の指に入る皆川亮二氏の漫画の映画化したもので、お話はその中の一話のみを映像化しています。

女性がほとんど登場しない骨太のアクションアニメで、とにかく縦横無尽に動きまくるアクションシーンが凄い。特に中盤の山場となるファットマン、リトルボーイ(共に日本に落ちた原爆の名前からとられている)との戦いは今まで見たアクションの中でも最高峰の出来だと思います。

またテレビアニメではなかなか表現出来ない「動く背景」も多く、映画の利点は最大限に活用してると思います。
基本的には原作に忠実なんですが、監修が大友克洋なので「AKIRA」的ニュアンスも濃く、ラストバトルなんて、特にそれを強く感じます。

全体的にそつ無く出来てはいるんですが、文句が無いわけでもありません。やっぱり本来続き物の作品を無理に単体にした為、キャラの登場などがかなり唐突。また原作で唯一の女性キャラだった染井芳乃ちゃんがまったく登場しなかったのは残念でならなかったっす。

でもまあ「戦って死ね」など男臭いキャッチフレーズなども好きだったので、総じて好きです。当時映画館に行って見ましたけど、ビックリするくらい人が少なかった記憶があります;;


「東京ゴッドファーザーズ」 / 96点

2003年公開
原作‥‥‥今敏
監督‥‥‥今敏
声の出演‥江守徹 梅津義明 岡本麗 能登麻美子
クリスマスの日本を舞台に、3人のホームレスが偶然拾った赤ん坊の母親を見つけようと東京中を駆け巡るロードムービーアニメ。

アクションシーンなどはほとんど無いんですが(カーチェイスはあります)、とにかくパッパッと切り替わる展開が最高に面白い。赤ん坊は誰の子で、どうしてあんな所に捨てられていたのか、という謎解き。そこに各キャラの過去や今に対する思いが織り交ぜられ、最初から最後まで一切の無駄がありません。

また競輪選手くずれ、オカマ、家出女子高生の3人のホームレスが非常に良い。一緒に笑い、でも時に喧嘩をして、でもやっぱり最後は一緒。そんな作られすぎたアニメには無いリアリティは、秀逸なストーリーもあり、魅力倍増。

映像は勿論最高級。背景の美しさは勿論、雪などの自然現象、キャラのディティールなども完璧だったと思います。笑いあり、涙あり。アニメ好きとか、そんな狭い範疇では語るべきではない、みんなに見て欲しい作品です。傑作!


「時をかける少女」 / 85点

2006年公開
原作‥‥‥筒井康隆
監督‥‥‥細田守
声の出演‥仲里依紗 石田卓也 板倉光隆 原沙知絵
現在を舞台に、ふとした事から自由に時間を行き来出来るようになった少女の冒険と淡い恋心を描いたファンタジーアニメ。

原作よりも20年後、という設定にはなっているものの、基本的なお話はほぼ同じ。ただ単に今(2006年)の世界観に合わせただけ(携帯電話とか、キャラの見た目とか)のように思います。
物語は大きく2つに分かれており、前半はタイムリープの力を手に入れた主人公・真琴が好き勝手に遊びまくるコミカル展開、後半は仲の良かった友人が彼女に告白した事がきっかけで、微妙な変化が起こっていくという感じです。

映像は映画にしては意外と普通。映画らしさと言えば、とにかくよく動くという点、キャラは元より、背景なども立体感を保ちながら動くのはお見事。
1館の公開だったにも関わらず口コミで大人気となり、アニメとしては異例のゴールデンタイムでテレビ放送までされただけあり、全体的に「粗」の無い作品だと思いました。
決して混乱する事の無いタイムリープ演出、素人臭さが逆に新鮮な風を呼び込む声優陣(個人的にはちゃんとした声優を使ってほしかったですが)。
飛びぬけて凄いとは思わなかったものの、逆に「ここはどうなのよ‥」みたいな点も無く、「エヴァンゲリオン」のキャラデザをした貞本氏の爽快な絵も良かったと思います。

ゴロゴロと転がりまくる真琴はとても可愛かったし(転がらないとタイムリープ出来ない)、男の子達も魅力的(口の聞き方がややムカつきましたが)、恋の行方などは比較的予想出来たものの、悪くはなかったと思います。
アニメ好きとか関係無く、見て損の無い作品だと思います。


「パーフェクトブルー」 / 85点

1998年公開
原作‥‥‥竹内義和
監督‥‥‥今敏
声の出演‥岩男潤子 松本梨香 辻親八 大倉正章
人気アイドル歌手がストーカーなどに追われ、狂気へと落ちて行く様を描いたサイコサスペンスアニメ。

アイドルや派手なライブシーンなどが登場するものの、萌えとは一切無縁(最初だけだし)。ジャパニメーション風の非常にリアルに描かれた人物は、リアルが故に少し怖く、だからこそ本作のサイコな雰囲気と一致していると思います。

お話はアイドルを脱し、女優になったヒロイン霧越未麻へのストーカー事件から端を発し、幻覚、妄想、被害妄想などが次から次へと湧き出てきて、ヒロインが混乱していくという感じで、現実と夢の混濁、グロい殺人事件、そして驚愕の結末へと一気に加速していきます。

とにかく本作は演出が良い。現実と夢の垣根をわざとぼかし、見る者を混乱させる手腕は見事。しかも、そのままやりっぱなしではなく、最後にはちゃんと意味が分かるのも素晴らしい。
また声優さんの演技も良い。後半、永遠と続く岩男潤子さんの耳をつんざく悲鳴などは、臨場感たっぷりで耳を塞ぎたくなります(笑)。

お笑いなど欠片も無く、サイコらしい悲惨な物語なんですが、大友克洋と肩を並べる今敏を知るには避けて通れない作品です。


「BLOOD THE LAST VAMPIRE」 / 82点

2000年公開
原作‥‥‥押井守 PRODUCTION I.G
監督‥‥‥北久保弘之
声の出演‥工藤裕貴
日本刀で吸血鬼を倒す女子高生ヴァンパイア・キラーの活躍を描いたアクションアニメ。
上映時間僅か50分。世界観、人物の説明などはほとんど無く、ただアクションシーンを羅列しただけという感じの内容です。キャラもタラコ唇におさげと、時代錯誤甚だしい。お話の概要を知りたい時はテレビアニメとかを見ないと分からないでしょう。
なので、この作品はとにかくアクションのみを見るべき作品だと言えます。

で、そのアクションですが、これだけはとんでもなく凄いです。ハイスピードでの戦闘シーンでさえも一切の妥協無く作られていて、見た時はビビリました。ブシャリをぶっとぶ血、ギラリと光る刀の美しさ、全身の筋肉をフル活動させる動きなど、もう最高。

ただ、それにも文句が無いわけではなく、50分全部アクションというわけでもなく、せいぜい20分程度。あれだけとんでもない映像ですから、20分が限界だったんでしょう。
結論、ストーリー無し、アクションは史上最高。そういう作品です。


「ブレイブ・ストーリー」 / 80点

2006年公開
原作‥‥‥宮部みゆき
監督‥‥‥千明孝一
声の出演‥松たか子 ウエンツ瑛士 大泉洋 斎藤千和
ふとした事から異世界「ヴィジョン」へと飛ばされてしまった小学5年生のワタル。「ヴィジョン」では5つの宝玉を集めると何でも願いが叶うと言う。辛い現実(父が失踪、母が自殺未遂)と、同じくヴィジョンに来たミツルを助ける為、ワタルの旅が始まる!
という、ファンタジーアニメ映画。

原作は大のゲーム好きとして知られる宮部みゆきさん。ドラクエやFF、ロード・オブ・ザ・リングらの影響が見え隠れするシンプルなファンタジー映画ながら、映画らしい大迫力の映像が堪能出来る作品です。
普段からゲームをしている私としては特別変わったストーリーではないし、そもそも超長編だった原作をたった2時間のアニメにして収まるわけがなく、素人目に見ても割愛している部分がかなりあるだろうと思わせるもののこれがまた不思議と駄作ではないと思いました。

まずCGが凄い。CGアニメの鬼GONZOが同時期にやっていたアニメをおざなりにしてまで力を入れた(汗)後半のモンスターが大量に溢れ出るシーンは圧巻。また、背景なども丁寧に描かれていて、感心しました。
それと前述したストーリー。思い切り割愛してたと思わせるものの、無駄に主役以外に焦点を当てる事もせず、主旨一貫とした感じ(要はワタルとミツルとの関係)になっていたので破綻していなかったんだと思います。
いくら話題作りの為とは言え、松たか子さんはたまに思い切り女の子声だったし、ウエンツはそれ以前に下手ってのが何とも歯痒かったですが、大泉洋さんは上手かったし、途中からあんまし気にならなくなりました。

まあ、原作の方が面白いんだとは思いますが、映画も見て損はしないと思います。


「マクロスプラス MOVIE EDITION」 / 89点

1995年公開
原作‥‥‥スタジオぬえ 河森正治
監督‥‥‥河森正治
声の出演‥山崎たくみ 石塚運昇 深見梨加 速水奨 林原めぐみ
近未来を舞台に、2人の飛行機パイロットと一人の女性の三角関係を描いたSFアニメ映画。。
「マクロス」の名はついてるものの、お話そのものが繋がっているわけではなく(35年後という設定にはなっているが)、共通点はあくまで世界観のみ。人類に仇名すエイリアンも出てこず、戦闘シーンはもっぱら2人の男の対立、そして重要な鍵となるバーチャルアイドルシャロン・アップルも絡んだ事件によって起きます。

映像は完璧。特にデジタルアイドル・シャロン・アップルなどは、当時まだCG技術も(それほど)発展していなかったのによくここまで出来た! と拍手物。戦闘機でのアクションシーンもため息が出るほどに素晴らしいです。

「天空のエスカフローネ」を上回る、見る者の胃を痛める泥沼の三角関係も、この先どうなるのだろうとハラハラドキドキ。ただ、男2人の性格がどちらもかなりアクが強いので、感情移入出来るかは微妙。どちらかに感情移入出来れば、本作ほど魅力的な作品は無いでしょう。私は案外冷静に見てましたが(笑)。
新居昭乃氏のウィスパーボイスが炸裂するテーマソングもGOOD。

映像で見れば最高。ストーリーで見れば、人によっては最高な作品です。あまりマクロスとか気にせずに見た方が良いと私は思います。ってか、私は初代マクロスを見た事がありません(汗)。


「メトロポリス」 / 90点

2001年公開
原作‥‥‥手塚治虫
監督‥‥‥りんたろう
声の出演‥井元由香 小林桂 岡田浩暉 石田太郎 富田耕生
近未来を舞台に、アンドロイドの少女と青年との壮大な恋愛を描いたSFアニメ。
手塚治虫氏の初期の名作を映画化。私が見た手塚治虫原作のアニメの中では間違いなく最高峰の出来だと思います。

世界観こそりんたろう氏と脚本の大友克洋氏による所が大きいですが、手塚氏独特の柔らかいタッチはほぼ完璧に再現。いや、原作以上にリアルに再現しているとさえ言っていいかもしれません。また映画ならではモブ(群集)シーンなども凄いの一言(物凄く手間がかかるのでテレビアニメではまず不可能なのだ)。

お話はふとした事からアンドロイドの少女と人間の青年が知り合い、仲良くなるも、彼女を狙う敵が出てきて逃げると言った無難な展開。サプライズはありませんが、後半の壮絶な展開と映像美はやっぱり心躍るし、ヒロイン・ティマは可愛い(笑)。

脚本が大友克洋だからなのかは分かりませんが、ハリウッド的なまとまり感があり、その辺りは(世界観も含めて)手塚先生っぽくないですが、決してそれが悪いわけではなく、2時間でキチッと収まっていて良かったと思います。
老若男女にお勧め出来る、優良アニメ映画だと思います。


「MEMORIES」 / 85点

1995年公開
原作‥‥‥大友克洋
監督‥‥‥森本晃司 岡村天斎 大友克洋
声の出演‥磯部勉 堀秀行 林勇
全3部からなるオムニバスアニメ映画。
1つは未来を舞台に朽ちた宇宙基地で起きる不可解な出来事を描いた「彼女の想いで」。2つは何故か強烈な匂いを発し、軍に追われる事になった男を描いた「最臭兵器」。そして最後は大砲を撃つ事だけが目的の街の日常を描いた「大砲の街」の3本。

それぞれテーマとなるものが異なっていて、「彼女の想いで」は映像の美しさと幻想さが徹底的に追求され、「最臭兵器」は怒涛のアクション、そして「大砲の街」は最初から最後まで全て1カットで描くという実験要素が追求されています。

まず、映像はどれも見事。これに関しては文句一つありません。ストーリーはどれも短めなので(「大砲の街」にはストーリーと呼べるものも無い)良い悪いが決めにくいですが、一発目の「彼女の想いで」が一番シリアスで好きでした。「思い出は逃げ込む場所じゃない!」って名言です。でも「最臭兵器」も如何にも大友さんらしい皮肉さが溢れてるし、「大砲の街」もお話は無いですが、本当に最初から最後まで画面が切り替わる事が無いのでビックリ(つまり映像が最初から最後まで繋がっている)。

単品でも十分に見応えがあるのにそれが3つもあってお徳(笑)。見て損はありませんよ。

戻る