「Sunshine Of The Diamond!」  その@


 黄土色の砂と灰色の石コロに覆われた荒野。時折生えている緑色のサボテンが、何だか虚しく見えてしまう。その荒野を両断するように走っている一本の線路。
 アメリカとメキシコを結ぶその線路は、物資の輸送には重要だった。今、その線路を八両編成の列車が通っている。一見すると単なる民間用列車のように見えるが、あれはそんなモノじゃない。黒煙をボウボウと吐き出しながら、その列車はアメリカへ向かっている。
 私は列車から離れた高台からその列車をじっと見つめ、そして叫んだ。
「行くよ! ハレルソン」
 私は乗っている愛馬ハレルソンの手綱を一気に引いた。白い立て髪をなびかせ、ハレルソンはヒヒーンッと勢い良くいなないて走りだした。日焼けした茶色の髪の毛が、風でなびく。色褪せたジーパンにはポツポツと穴が空き、麻のシャツは砂に塗れている。とても、婦女子の着る格好ではないだろう。でも、これでいい。私にはこれが似合っている。
 でも、今日は特別に化粧をしている。真っ赤なルージュだ。なにせ、世界最大のお宝とご対面する日なのだ。この程度しなくて申し訳無いというものだ。
 私の名はミスティ・ガートランド。この、法律も秩序も無い荒れた荒野で名を馳せる、女アウトロー。人を撃った回数は数えられない。そして、かけられた賞金額、五万ドル。
 この世界では、銃の実力だけが全てを左右する。そこには男も女も関係無い。早く抜ける者、正確に的を射止められる者だけが生き残れる。私は持って生まれた正確な射撃能力で、この二十数年生きてきた。
 疾走する列車に近付く。あの列車には四十万ドル相当のダイアモンドが詰まれている。サンシャインと呼ばれる、この世の物とは思えない美しさを持つそのダイアは、富豪達の間で信じられない程の高値で取り引きされている。実物を見た事は無いが、本で見た写真によれば、人の目玉よりも大きい。私の目的はそれだ。それを手に入れれば、しばらく、いや、私がおばあさんになるまで遊んで暮らせる。
 この世界は金が全てだ。金が無ければ何も出来ない。逆に金さえあれば、何でも出来る。私はこの世界の全てを手に入れたい! だから、金になるものは何でも奪う! チンタラ働いていたら、そんな事は出来ない。私には天下無敵の才能がある。それをフルに使って、この世界を手に入れる!
 滑走する列車の横にまで近付く。列車は轟々と低く唸りながら滑走している。しかし、スピードは決して早くない。それに、私のハレルソンは優秀だ。簡単に横に着く事が出来た。その時だった。
「来たぞ! ミスティだ! 各隊員、マーチ(構え)!」
 列車の窓から男の怒号が聞こえた。きっと警官か誰かだ。しかし、警官がいる事など百も承知だ。四十万ドルのダイアモンドが詰まれているのだ。ポリスマンがいない事の方が珍しい。
 男の声から数秒。並んだ窓から無数の銃口が顔を覗かせる。リボルバー、ライフル‥‥。結構な数だ。私は声をあげて笑う。
「OK! さあ、撃ってきなさい! 伊達に「ミスティ」(霧)の名で呼ばれていないわよ!」
 黄土色の噴煙を撒き散らすハレルソンの手綱を引く。その瞬間、凄まじい爆音が響く。
目に見えない弾丸が私に向かって発射される。しかし、弾は私には当たらない。ハレルソンは急激にスピードを落とした為だ。弾は私とハレルソンの前方に撒き散らされる。
「残念!」
 私は腰に下げた銀色の六発式リボルバーを素早く抜き、窓に向かって銃口を合わせる。
銃把を持ち、左手をトリガーに添える。私のハレルソンは優秀だ。手綱を手放したところで暴れる事は無い。私は正確に狙いを定める事もせずに、六発一気に撃ち放った。
 ダンダンダンダンダンダン!
 まるで回転式機関砲(ガトリングガン)のような連射で鉛の弾が飛び出す。弾は正確に六人の眉間を貫いていた。慎重な狙いなど、私にはいらない。予想だけで、私の弾は正確に敵の急所を刺し貫けるのだ。


「うわっ!」
「ぎゃああ!」
 列車から悲鳴と絶叫が聞こえる。その瞬間、銃弾の嵐がピタリと止んだ。銃口も一気に引っ込む。向こうは動揺しているようだ。私はその隙に新しい弾を込める。そして、すぐさま窓に向かってまた六発ブッ放す。弾は窓の縁を削り、中で右往左往している警官達に当たる。さすがに急所にまでは当たらなかったようだが、今はそれでいい。
 私は銃をホルスターにしまうと、再びハレルソンの手綱を手に取り、更にスピードを下げた。
 そして、列車の一番後ろにつく。列車の後方部には手摺りが付いている。私はハレルソンを列車ギリギリまで寄せ、手綱から手を放す。腰を上げ、ハレルソンを跨いでいた足を片方に寄せる。そして、タイミングを見計らって、一気にハレルソンを蹴った。私の体は刹那宙を舞い、次の瞬間には列車に張りついていた。しかし、手摺りを持っているだけの状態なので、ちょっとでも気を許したら疾走する大地に叩きつけられてしまう。
「ははっ‥‥成功」
 にも関わらず、私は笑ってそう呟く。こんな事は日常茶飯事なのだ。それに、手摺りさえ離さなければ落ちない。何も難しい事など無い。気合いさえあれば、ずっとここにだっていられる。あいにく、今はそんな余裕をかましている時間は無いが。
 後ろを見るとハレルソンが大きな目でじっと私を見ている。私は遠く、列車の遥か前方に見える高地を指差す。
「あそこで待ってなさい、ハレルソン! 一時間で行くわ!」
「ヒヒーーーンッ!」
 ハレルソンは大きく一鳴きすると、列車から離れていった。私はそれを見届けると、片手を離し、器用に片手だけで弾を込める。もう片方の手はきつく、絶対に手摺りを離さない。
「‥‥」
 何人、中に警官がいるから分からない。しかし、何人いようとも私は止められない。私には神(とは言っても信じていないが)から授かった、究極の正確な射撃能力がある。何人いようと、倒してみせる。
 しかし、一つ引っ掛かる事がある。私が手に入れた情報によれば、この列車にはアウトロー達が震え上がる、最強の用心棒バルジア・ミックスモントが乗っているはずだ。彼に手にかかったアウトローの数はかるく百を越える。リボルバー拳銃ではなく、ビックリするくらい長い銃口の二発式ライフルを愛銃とし、どんな奴でも必ず一撃で仕留める。彼に二度目を撃たせた者はいない。
 この列車には奴が乗っているはずだ。だが、さっきの銃撃の時、彼はいなかった。と言う事は‥‥カルーアがちゃんと彼を引き止めているという事だ。カルーア、頼むわよ。さすがの私も奴とサシで勝負したら、勝てない気がする。あなただけが頼りなのよ‥‥。
 私は小さくため息をする。そして、再び弾を込め直し、グッと息を止め、勢いをつけて体を揺らしドアを蹴り破った。


 ミスティ襲撃から約十分前・・・・・
「‥‥バルジア・ミックスモントさん? ‥‥すいません、聞いた事無いです」
「ははっ、君のような育ちの良さそうなお嬢ちゃんじゃ無理も無いですよ。私は悪人の中でしか有名じゃないですからね」
「そうなんですか‥‥」
 私は何も分からない、と言いたげに小首を傾げてみせた。本当はお嬢ちゃんなどと呼ばれて鳥肌が立っていた。私がお嬢ちゃん? 冗談はやめてよね。
 バルジア・ミックスモントは、正直な所、随分想像と違っていた。もっとゴツい男を想像していたが、これがまたどうして、とても人など撃てそうにない痩せ男だった。柔らかそうな金髪、優しそうな瞳。服だって、新品同様のタキシードだ。しかし、その細い手には明らかに無数に引き金を撃ってきたマメが出来ていた。
「それにしても不運でしたね、お嬢ちゃんも。こんなヤバい列車に乗ってしまうなんて」
 バルジアは私の隣の席に腰掛けた。私は小さくため息をついて、そうですね。と答えた。
 私こと、カルーア・ガートランドは今、前から二番目の車両に乗っている。勿論、後少しでミスティ姉さんが襲う列車だ。今、この車両には私とバルジアの二人しかいない。それもそうだろう。四十万ドルのお宝の詰まれた列車に乗るという事は、強盗に襲われてくださいと言っているようなものだ。ポリスマンなら分かるが、普通の人間ならまず乗らない。
 ちょっとした手違いで乗ってしまった、と私はバルジアには話したが、信じてもらえているかは不明だ。まあ、十五分程度騙せていればいいのだが。
 私の目的はこのバルジアを出来るだけ足止めしておく事だ。その為に、今までに着た事も無いようなフリルのついたピンク色のドレスに身を包み、上流階級の人間を装っている。茶色い髪の毛には高価な宝石をあしらった髪止めがついている。手にはなんと日傘だ。何だかバカみたいだ。本当は今すぐにでも脱ぎ捨てて、ミスティ姉さんみたいな格好に戻りたいのだが、今は我慢、我慢。
 ミスティ姉さん曰く、私にはアウトロー独特のギラギラ感が無いらしい。だから、大人しい格好をしていれば大人しく見える。まあ、ミスティ姉さんみたいに胸も大きくないし、見た目も本当の歳に似合わず子供っぽい所があるから、努力すれば可憐な少女に見えなくもない。
 幸い、バルジアは私を上流階級の人間だと思っている。姉さんと違って、私には一ドルの賞金もかけられていない。銃をブッ放すのはいつも姉さんだったから、姉さんにだけ賞金がかけられたのだ。それも幸いした。バルジアは私の顔を見てもミスティ・ガートランドの妹だとは分からなかったようだ。
「それにしても、本当にあのミスティ・ガートランドがこの列車を?」
「ええっ。この辺一体は彼女の支配下ですから、まず間違いなく来るでしょう。まったく、カラミティ・ジェーンよりも厄介な奴ですよ」
「まあ‥‥そんなに凄い人なんですか?」
「銃の腕は天才的なものがあります。そこらへんの男達じゃ、相手にならないでしょうね。まっ、俺に勝てるかどうかは疑わしいものですが」
「ふふっ‥‥頼もしいですわ」
 優しそうな顔をしているわりに、自信たっぷりだ。伊達にアウトロー達から恐れられているわけではないようだ。その証拠に反対側の席、さっきまで彼が座っていた場所には物々しい大きさのライフル銃が立て掛けられている。タイプはどこにでもある二発式のライフルだが、とにかくあの長い銃口が気になる。確かにあれだけ長ければ、相当の命中率があると見て間違いないだろうが、撃たなければ何の意味も無い。
 その時だった。後ろの車両の方から数人の男達の怒号が聞こえた。その怒号の中にミスティだ、という声も聞こえた。どうやら、姉さんが行動を開始したらしい。
 バルジアの目がキッと鋭いモノに変わった。さっきまでの優しいイメージはフッと掻き消えてしまった。そして、私には何も告げず席を立つ。私はそんな彼の腕を精一杯掴む。
「恐いですわ! お願い! 一緒にいて」
 目に涙を浮かべ、彼を見上げる。バルジアは困ったような顔をしてしまう。
「大丈夫ですよ。絶対にここまでは来ませんよ。それに、私が行けばすぐに終わります。お嬢ちゃんは何の心配もしなくていいんです」
「でも‥‥不安ですわ。お願い‥‥」
 バルジアの腕を胸にギューッと押しつけて、離れまいと歯を食いしばる。何だかんだ言って、彼の銃の腕は超一流だ。さすがの姉さんも無事では済まされないかもしれない。何としてもここに彼を繋ぎ止めておかなくてはいけない。
 バルジアは頭をポリポリと掻くと、大きくため息をついて席に戻った。どうするか迷っている顔だ。私はここぞとばかりに彼の胸元に顔を埋め、泣く真似をする。
「行かないで‥‥ここにいて‥‥ほら」
「‥‥‥えっ?」
 私はバルジアの手を自分の胸に添える。バルジアは驚いた様子で、私の顔を覗き込む。
「何を‥‥」
「私の胸‥‥ドクンドクンと高鳴っているでしょう? とても緊張している証拠よ」
「‥‥‥‥」
「ねえ‥落ち着かせて‥‥」
 うーむ。何だか言っている事が相当支離滅裂な気がする。えっちい事すれば、緊張は解けるものなのだろうか? いや、解けない気がする。それに、こんな非常事態にエッチい事をせがんでいる私って一体何? ‥‥さすがに展開が早すぎたかもしれない。しかし、姉さんはもう行動を始めてしまっている以上、こっちも早めにしなければいけない。
「‥‥分かりました」
 がしかし、バルジアの方は誘われてやる気満々だったようだ。添えた手をもぞもぞと動かし、服越しに胸を愛撫してくる。‥‥思ったより上手かもしれない、この人。


「ああっ‥‥んん」
 バルジアが私の唇を塞ぐ。すぐに舌が入り込んでくる。その間に背中に手を回し、服の紐を解きにかかる。慣れた手つきだ。それに、舌のテクニックも上手だ。私は一瞬目的を忘れて、彼の絶妙なテクニックに惑わされてしまう。
「んんっ‥‥んっ」
 あっと言う間に上半身を裸にさせられる。ちょこんと胸の先が飛び出している。キスと簡単な愛撫程度で随分と感じてしまったらしい。恥ずかしさに顔を俯かせていると、バルジアは不敵に笑って私の耳たぶを甘噛みする。そして、露出した胸を滑らかな手でさする。
「ああん‥‥いやぁ」
 耳を甘噛みされ、小さな胸を存分に触られ、とどめと言わんばかりに乳首をなぶられる。
ぞくぞくとした感触が背筋を走り抜けていく。親指と人差し指の間で私の乳首はコリコリと大きくなっていく。
「あはぁ‥‥んん‥‥」
 甘い吐息を吐く。手の先が痺れて、何の抵抗の出来ない。彼の手がゆっくりと私のスカートの中に潜り込んでいく。太股の付け根に手が届くと、彼は勿体振ったように太股の愛撫から始める。なかなか付け根には触れてくれない。
「いやあ‥‥はやくぅ‥‥」
「ふふっ」
 懇願し、涙目で彼を見る。バルジアはまた不敵に笑い、それでもなかなか触れてくれない。乳首を口に含み、面白可笑しく転がす。そして、ゆっくりと一番敏感な所に指を触れる。
「あっ!‥‥んんっ」
 私の体がビクンと跳ねる。額に浮いていた汗が飛び散る。加速していく列車の振動が心地良い。既に濡れている私の花芯をバルジアの手がパンツ越しに触れる。クッキーの生地を揉むように、優しく傷つけないように上下に揉みしだく。そして、下着の中に手を入れ、濡れそぼったその中に指を沈めていく。
「んんんっ! ああっ‥‥」
 私の中で蠢くバルジアの指。内側をこすり、中全体を触れていくその指はたまらなく心地好かった。正直私は、目的自体はほとんど忘れていた。ただ、彼にメチャクチャにされたいという欲望だけがメラメラと燃えていた。
 私は下着を脱ぎ捨て、仰向けになっているバルジアの上に馬乗りになった。大きく隆起した彼のモノを呑み込む。今までにもこうやって体を使って仕事をしてきた事はあった。
中には女相手にこういう事をする時もあった。しかし、その誰よりもこの男は上手だった。
「ああああんっ!」
 私が完全に腰を降ろした瞬間、いきなりバルジアは自分の腰を突き上げた。背中が麻痺するかのような強烈な快感が走り抜ける。それから彼は休む事無く腰を突き続けた。私の体は何度もバウンドする。長い髪の毛や小さな胸がこれでもかと言う程揺れた。
「あん ああぁ! あはん」
 我を忘れて嬌声をあげてしまう私。体中から染み出る珠汗が飛び散る。秘部から淫らな音が飛び散り、淫奔な雰囲気を作り上げていく。
 バルジアはやがてゆっくりとその動作を止め、今度は私を仰向けに寝かせる。遠くどこからか銃声が聞こえる。まだ姉さんは警官達とやり合っているようだ。ごめんね、お姉ちゃん。私、仕事って事すっかり忘れて淫らになっちゃってるわ。
「しばらく‥‥おねんねしてな」
 そう耳元で囁いたバルジアは一向に小さくならないモノを、再び私の中に没入させていく。
「んんんっ!」
 再び体全体が痺れるような感覚。そして、今回もバルジアはまったく私の事など気にかける事無く、運動を繰り返す。私は息も絶え絶えになりながら、姉さんの放つ銃弾のように襲いかかってくる快楽に身をよじらせた。
「はぁ‥‥はぁ‥‥あああっ! もっ‥‥もうちょっと‥‥優しく」
 何とか言葉を搾り出すが、バルジアは聞こうとしない。思い切り腰を打ち付ける。私の声はほとんど声にならなかった。この時になって、私は初めて何かがおかしい、と気づき始めた。しかし、時既に遅し。
「あ‥‥あなた‥‥んんっ。もしかして‥‥‥全部‥‥知ってる?」
 そう聞くと、バルジアはにっこりと微笑んだ。
「勿論。でも、僕は無駄な殺生はしない主義でね。しばらく‥‥ぐったりしてな」
「くっ‥‥くそっ‥‥ああん‥‥んんっ!」
 手に力を込めようとするが、もう駄目だった。散々ヤられた為、体中が疲れきっていた。
それでも、彼は動き続ける。淫らな音が弾け飛ぶ。私は体の奥底から沸き上がってくるものを堪えきれなかった。
「ああっ‥‥イク‥‥あっ‥‥あああああっ!」
 頭の中で何かがプチンと切れて、その瞬間、私はパッタリと気を失った。


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