人も疎らになった校門前。日は暮れ、十三人の上には紺色の夜空が広がっている。天ノ川学園の生徒達と青山先生は満足げな顔で帰っていった。その後ろ姿を見つめていた明日野辺高校のウィングスメンバー達は、少し名残惜しそうな顔で、彼らを見送った。
「お兄ちゃ〜ん、本気で愛し合う? あの曲みたいに」
「遠慮する」
「何でーーーっ!」
相変わらず龍の腕にコアラのように抱きつく奈々子は、口をへの字に曲げる。
「良かったね、綾音。成功して」
「私が出てるのよ? 成功するに決まってるじゃない」
「主役じゃなかったけどね、相変わらず」
「‥‥その事は言わないでよ」
目を線にして笑う福之助の隣で、綾音はシュンと肩を下げた。
「何だか、有名人になった気分ですね」
「ああっ。でも、本当に有名になったかも」
腕を絡ませながら、乙姫と竹友はゆっくりと語り合う。
「まったく、何考えてんかしら、あの男」
「‥‥でも、悪い気はしなかったでしょ?」
「‥‥まあね」
涼の問いに、悠ははにかんだ微笑で答えた。
「サクラコちゃん! 何で猫耳出さなかったの?」
「だってぇ、いい気分の時は出ないんですぅ、はい」
「猫耳出したら、きっとファンクラブが出来たね!」
「‥‥恥ずかしいです、はい」
まだまだ興奮の冷めていないシルビアに、桜子はちょっと照れた表情を見せた。
「やっぱりウィングスはいいわよね。勝負なんて言葉、途中で忘れちゃった」
「そうそう。静香はそうでなくっちゃ。ですよね、未森先生?」
並んで歩く二人の前で、口笛を吹く未森先生がいる。未森先生はクルリと振り返り、見慣れた十二人の顔を見る。
初めてこの子達を見た時、バラバラだな、と正直思った。性格も体格もバラバラで、これで本当に踊りが出来るのだろうか、と肝を冷やしたものだ。でも、初めての発表の時、いや、その練習段階でそんな不安は消えてしまった。この子達なら、きっと素晴らしく楽しそうな踊りを披露してくれるだろう。そう確信した。
そして、今ここにいる十二人はその確信に見事に応えてくれた。私もこの子達の事が大好きだ。別に勝負などで負けても構わない。でも、これだけは負けたくない。この子達を愛する気持ちは誰にも負けない。青山先生と会って再確認した事だ。それだけでも、あの合同開催には意味があった。
「そうですよ〜。透君〜」
「ですよね」
少しお調子者な子。彼がいないとウィングスは堅苦しいものになっていたかもしれない。
「静香さん〜。あなたも、本当に頑張ったわね〜」
「はい、ありがとございます」
しっかり者のいい子。彼女が部長で本当に良かった。
「悠さん〜。いい恋人が出来たじゃない〜」
「ちょっとナル入ってますよ、彼」
少し怒りっぽくて、強気な子。彼女の気の強さは色々な人に頑張りを教えてくれた。
「涼さん〜。これからも悠さんと仲良くね〜」
「‥‥将来、コンビでデビューしますから」
「何の!?」
「ふふふ〜」
ちょっと恐い感じの子。でも、本当はとても優しい子だという事は、みんなはもうとっくに知ってるだろう。
「龍君〜。いい踊りだったわよ〜」
「ありがとうございます、先生」
あんまり喋らないと思っていた子。でも、一年生が入ってからはとても明るくなった。
「奈々子さん〜。しっかりとお兄ちゃんの後、継ぐのよ〜」
「はい! 離れてても私とお兄ちゃんは一心同体ですから」
兄を心から慕っている子。龍君が引退したら、ちょっと心配かな。
「桜子ちゃん〜。可愛い踊りだったわ〜」
「どうもです、はい!」
猫耳のある、ちょっと不思議な子。この子は決して悪い子にはならないだろう。
「乙姫さん〜。次の部長はあなたがいいわ〜」
「私がですか? ちょっと不安ですけど、やりたいです」
規律正しい、清楚な子。この子はきっと次の部長をやっても、出来るだろう。
「竹友君〜。ちゃんと乙姫さんを竜宮城に連れていくのよ〜」
「はい。って竜宮城って?」
戦争が好きだけど、しっかりとした性格の子。この子と乙姫さんのペアなら、次のウィングスも安心して任せられる。
「シルビアさん〜。アメリカに帰っちゃダメよ〜」
「はいね! この土地に骨を埋めるね!」
とても明るい子。この子がいれば、新しい生徒も簡単にウィングスに馴染めるだろう。
「福之助君〜。綾音さんをよろしくね〜」
「はい。任せてください」
いつもマイペースな子。彼はきっとどんな生徒達の仲介役も出来るだろう。
「綾音さん〜。寄付金ちょうだいね〜」
「任せてください。お父さまに言えば、そんなの簡単ですわ」
高飛車だと思っていたけど、とても頑張り屋な子。こういう子がいる限り、ウィングスは絶対に無くならない。
いい生徒達と巡り合ったものだ。青山先生の気持ちもよく分かる。でも、私はこの子達の笑顔だけで十分だ。いや、十分なんて言い方はよくない。それだけあれば、他には何もいらないのだ。
暖かい空気の中で、未森先生は十二人に言う。いつもと、何も変わらない顔で。
「みんな〜。今の顔、最高よ〜」
どこからともなく流れてきた黄色い羽が一枚、十三人の間を縫うようにして通り過ぎていった。
終わり
あとがき
この作品は私の音楽マニアぶりを披露する為に作ったと言っても過言ではありません。PVなどを見るのが大好きなので、それと学園コメディを足してこんな作品を作りました。今読んでもそのダンスシーンがいただけないとは思うんですが、ここで掲載した以上はよっぽど要望が無い限りは変える気は無いので、ずっとこのままです。
でも、キャラクターはとても気に言っているし(ちなみに悠はモーニング娘。の矢口真里さんをモデルにしていたります。涼は深田恭子とか?)、皆さんに愛されれば、なんて思います。