僕の上にはいつも同じ空があった 高校1年生編4


 映画が好きになったけれど、僕は相変わらずアニメオタクであり、ゲームオタクだった。当時、テレビでやっていたアニメはほとんど見ていたし、ゲームだって大好きだった。『新世紀エヴァンゲリオン』は劇場版が公開され、大人気だった。『ファイナル・ファンタジー』は七まで出ていて、僕も夢中でやっていた。
 高校に入る前に、中学の友人からある一本のゲームソフトを買っていた。それはパソコンでしかできないアダルトゲームで、僕はずっとそれを自室の押し入れに入れていたが、実のところどうしてもやりたかった。高校に入って松田がパソコンを持っているという事を知り、僕はある日曜日、彼の家に遊びに行った。
 彼の家は学校から自転車で三十分くらいの所にあり、随分と古い一軒家だった。
「いいよ、入って」
 彼は快く僕を自室に案内してくれた。
 四畳半の小さな部屋にベッドと勉強机、本棚、そしてパソコンが置いてあった。僕と彼とはアニメやゲームが好きという関係で親しくなったのだが、彼の部屋にはあまりそういうモノが置いてなかった。
 僕はさっそく彼に頼み込み、パソコンを起動してもらい、ゲームをやった。表紙は鎖に繋がれた年端もいかない女の子が寂しげな顔でこちらを見ている、というモノで、ゲームを起動してすぐに、
「このゲームはフィクションです。実際にやると犯罪ですので気をつけてやってください。実際にやると、あなたの人生が悪夢になります。オナニーは一日五回程度にしておいてください」
 という文字が出て、ゲームが始まった。
 ゲームの内容は病気で余命いくばくも無い富豪の男が死ぬ前に何かやろうと思い立ち、とある女子学園の修学旅行中のバスを襲い、女の子達を拉致監禁してヤりまくる、というレイプ物の作品だった。
 凄く面白かった。そこには僕の知らない世界が広がっていた。世間的にレイプは良くないとか、そんな事はどうでもよかった。ただ、女の子達が犯されているという光景が、たまらなくエロチックで、僕は本当はその場で一人エッチをしたい欲望を必死にこらえた。
 友人はその後ろであまりいい気分ではなさそうな顔をしていた。彼にはそういう趣味が無かった。
でも、そんな彼を説得して、僕はその日を境に何度も彼の家に訪れた。その度にゲームの中の女の子達は犯されて自殺したり、主人公を殺したりしていた。


 苛めはずっと変わり無く続き、プライベートでは映画とレイプゲームに勤しんでいた頃、旅行に行く事になった。学校行事のスキー学校である。
 僕はまったく行きたくなかった。スキーなんてほとんどやった事が無かったし、僕は仲間達と一緒にワイワイやるというのが大嫌いだったからだ。でも、学校の行事なので拒否する権利は無かった。勝手に休んでもしたら、それは僕にとっては殺人と同じくらいの罪だった。
 大人に逆らう事は、僕にとっては社会からの逃亡だった。
 行く前に部屋割りを決める事になった。勿論男女は別々だ。僕は友人の三人と一緒に組む事ができ、ホッと胸を撫で下ろした。
 具体的にどこに行ったのか覚えていない。でもスキーをしに行くのだから、雪の降る寒い所だった事だけははっきりと記憶している。ホテルの前にも結構雪が積もっていたと思う。
 出発の前日、僕は母親にねだってボストンバッグを買ってもらった。リュックではあまりにも不細工だと思ったからだ。近くのデパートに買いに行った。その時、ジュースのバヤリースのバッグが売っていたので、それにしたいと思ったのだが、
「そんな変なのやめなさい」
 と言われて、仕方なく普通のバッグを買う事になった。
 そして当日。案の定、皆ボストンバッグで来ていて、リュックで来ている者はほんの少ししかいなかった。僕は心の中で、
「良かった。リュックじゃなくて」
 とまた胸を撫で下ろした。少数派でいるという事は、これ以上無い程の苦痛だった。大多数の中にいれば、自分一人が浮く事も無い。戦争と同じだ。一人だったら狙われるけれど、大多数の中にいれば自分だけが狙われる事は無い。
 僕の場合は一人になっても狙撃される事は無く白い目で見られる程度だったが、それは僕にとっては狙撃と同じ痛みだった。
 トランクスかブリーフで行くかでも散々悩んだ。結局トランクスで行く事になったが、これも風呂に入る時に役に立った。


 旅行当日、学校の前に大型のバスがズラリと並び、それに乗り込んだ。席は自由で、僕は佐野と一緒に前の方の席に座った。
 バスの中で古川が仲のいい女の子達に、
「てっきりあいつセーラームーンの服着てくると思ってんだけどなぁ。すげー、残念」
 と嘆いていた。女の子達はどう反応していいのか分からず苦笑いを浮かべ、僕は、
「んなの着てくるわけねえだろ! 馬鹿じゃねえの! 常識とか分かれよ、このクソ野郎」
 と叫んで、古川の首根っこを掴み、顔面に何度もパンチする事も無く、黙って自分の席で寝ていた。
 バスの周りがどんな風景だったかも覚えていない。あいつの汚い言葉を聞きたくなかったから、ずっと目を閉じていた。古川の言葉は例え僕に対するモノでなくても、雑音だった。
 気がついたら、宿舎についていた。


 宿舎について、僕はお土産を買おうともせず、外の景色を見ようともせず、自分の部屋で持ってきた小説を読んだ。部屋の外では古川みたいな連中と、お尻が軽そうで、きっと援助交際とかしてアソコがグチャグチャなんだろうと思われる女の子達がワイワイと話していた。僕はそれを無視して、ずっと小説を読んだ。 『機動戦士ガンダム』の小説だったが四冊くらい持っていき、二泊三日の旅行で全て読み尽くした。
 それと、友人の佐野がTMネットワークのCDを持ってきていて、それも聞かせてもらった。凄くいい音楽だと思った。その時もう小室哲哉は安室奈実恵などの音楽を作っていた。TMネットワークの音楽を聞いた時、彼はもうそういう音楽を作らないのだ、と思って落胆した。
 CDを聞きながら小説を読んだ。他には何もしなかった。スキーはしたが、それだけだ。ただ滑っておしまい。ゲレンデの恋なんて咲くはずも無く、ただスキーをやった。更に僕はスキーがヘタクソだったので、面白いとも思わなかった。はっきりと覚えている事は一泊目の夕食の時に古川の隣になってしまい、出されたうどんがほとんど食べられなかった事くらいだ。
 つまらない旅行になると行く前から思っていたが、思っていた以上につまらない旅行だった。


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