僕の上にはいつも同じ空があった 高校1年生編5


 苛めは続いていた。誰も古川を止めようとしなかった。いい加減、書くのも面倒になってきたが、僕の高校一年の思い出はそれしかない。
 僕は何とか彼の暴挙を止めようとした。とは言っても、映画好きというイメージができ、皆が賛同しなくなっても彼の暴挙は続いていたので、並みの事ではダメだと感じた。
 そして行き着いたのがダイエットだった。
 当時、僕の体重は八十キロぐらいあった。誰がどう見てもデブである。更に色白、アニメオタク、眼鏡。これ以上無いくらいの不細工さである。それは僕自身も古川も、僕の家族も認めていた。人間はまず最初に姿を見て、その人の良し悪しを判断する。最初はそれ以外に分かるものがないのだから仕方無い。
 だから見た目が変われば、苛めも終わるだろうと思った。
 方法は至極単純で、食べる量を減らすというモノだった。朝食はたっぷり食べて、昼食は食べない。夕食も今までの半分にした。
 きついと感じた事は無かった。古川のにやけた薄ら笑いを見ずに済むのなら、この程度の事は耐えられた。母親も結構心配していた。でも、そうしないとずっと苛めが続いてしまうと思って、頑張ってやり続けた。
 だがやはりは昼は辛かった。他の生徒は学食へ行ったり、お弁当を食べたりしていた。僕はそれを見ているのが辛くて図書室に行く事にした。そこで本を読んでいれば有意義に時間を過ごせるだろうと思ったからだ。
 図書室には普通の本の他に月刊誌などの雑誌も置いてあった。その中でもアニメ専門雑誌の『アニメージュ』と科学雑誌の『ニュートン』が面白く、毎日それを読んでいた。アニメージュには毎月アニメのポスターがおまけとして入っていて、僕は毎月こっそりそのポスターを盗んでいた。誰にもバレなかったので合計六、七枚くらいは盗んだ。当時は『エヴァンゲリオン』と『機動戦艦ナデシコ』というアニメが特に流行っていて、その種類のポスターばかりが集まった。
 食事制限の結果、僕は三ヶ月で十キロのダイエットに成功した。首周りがすっきりして、今まで履いていたズボンがユルユルになってしまった程だった。
 これでもう何も言われないと思って安心した。
 でもやっぱり古川は馬鹿だった。何をしたって、彼のやる事は同じだった。きっと第三次世界大戦が起こって世界の人口の九十五%が死に絶えたような世界になったとしても、彼は僕を苛めていたであろう。
 こうして、二学期が終わり、短い冬休みになった。


 テレビゲーム以外これと言ってやる事の無かった冬休みが終わり、三学期になった。
 僕の生活は何一つ変わらなかった。友人宅でレイプゲームを完全にクリアした。選択肢によって結構たくさんの結末が用意されていて、僕は結局全部夢で、本当は主人公は彼女達の担任の先生だったというオチが一番気に入った。最初は面白かったが、最後の方は結構女の子達に同情してしまい、それ以来、僕はレイプ系のゲームはほとんどやらなくなった。
 授業は普通に受けて、成績はずっと上の下だった。苛めはずっと続き、それに同情した連中とはそれなりに仲良くなって、三人の友人ともずっと仲良く遊んだ。
そうして、三学期が終わった。


 春休みになる前、担任の先生に、
「古川とその仲間達とは絶対に違うクラスにしてください」
 と頼んでみた。今何かと話題の苛めだ。先生もダメとは言えないだろう、という目算があった。
 結局、それしか方法が思い浮かばなかった。それならば、あいつらに逆キレされて殺される事も無かっただろうとも思っていた。更にそれが校長か何かがそれを知って、古川が退学になるのではないか、とも期待していた。
 先生は僕の話を聞いて、細かい事は何も聞かず、
「分かったわ」
 と答えた。もっと驚いた顔をすると思っていたが、予想に反して先生は淡々としていた。苛めがあった事を知っていたのか、それともその事を深く考えるのが嫌だったのかは知らないが、とにかく淡々としていた。
 クラスの発表は二年にならないと分からないので、僕は先生の言葉を信じる事にした。出来れば古川にはこの学校から出て行ってほしかったが、あの先生は熱血の「ね」の字も無い先生だったから、そんな事までは期待出来なかった。
 こうして、僕の大して充実もしていない一年は終わった。今、当時のメンバーで同窓会をやろうという話になっても、僕は絶対に出ないだろう。


高校1年生編 完
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